ユーロ・ダンス・インプレッション

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10月15日追記

現地時間の10月14日夜、マクロン大統領がテレビ局のインタビューに答え、コロナウイルス第2波を乗り切る措置のひとつとして、一部の地域に夜間外出禁止令が発令された。このため、劇場の日程に変更が出ると思われるので、各劇場のホームページで確認してください。
夜間外出禁止令が適応されるのは、パリとその近郊イル=ド=フランス地域圏を含む9都市(リヨン、マルセイユ・エクサン=プロヴァンス、モンペリエ、トゥウールーズ、グルノーブル、リール、ルーアン、サン=エティエンヌ)で、夜9時から朝6時まで。10月17日から少なくとも4週間、状況によっては12月初めまでの6週間に延長される可能性もある。
このため、レストラン、映画館、劇場などは夜9時までの営業になり、9時以降に外出すると、初犯は135ユーロの罰金、徐々に金額が上がって4回目以降は3,750ユーロの罰金及び6ヶ月以下の禁固刑!(10月15日)


今年は例年とは異なるシーズンとなり、多くの劇場が10月からのスタートとなっている。リハーサルなどの準備のためで、少し開催が遅れるものの、半年にわたるブランクを補うかのように、充実した1年になりそうだ。
前回7月に紹介した以外の劇場の年間公演予定と変更を少し。

テアトル・ド・ラ・ヴィル(パリ市立劇場)

他の劇場より新シーズンの発表が遅れたのは、変更なしの確実な演目を提示したかったのではないかと推測。
国立シャイヨー劇場がダンス専門になったためか、市立劇場のダンス演目は、昔のように著名人が名を連ねることはなくなったように感じるが、新人や中堅の、映画でいえば独立系のアーティストが続き、新しい発見があるのではないかと期待させる。
10月末の伊藤郁女と笈田ヨシの新作「絹の太鼓/Le tambour de soie」が目を引く。
アクラム・カーンは先シーズンでダンサーとしての活動を停止したが、ソロ作品は少し改定されて受け継がれ、「Chotto Xenos」として上演される。「Chotto Desh」同様、「Chotto」という言葉が気になていたが、どうやらこれは日本語の「ちょっと」から来ているらしい。
年末年始は気鋭の振付家ホフェッシュ・シェクターのセカンドカンパニーによる「ポリティカル・マザー」がアベス劇場で、またシャロン・エイアルの「Soul Chain」は104との提携公演で行われ、フィジカルビートに酔いしれる年越しができそうだ。
ディミトリス・パパイオアヌーの新作、スケート場でのパタン・リーブル、芸術監督が(ラ)オルドになったマルセイユバレエ団、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルのソロ、いまだに人気が衰えないマギー・マランの「メイB」、ピナ・バウシュの「青髭」が見られるのが嬉しい。ホフェッシュ・シェクターのファーストカンパニーによる「グランド・ファイナル」に続き、シーズンはイスラエル・ガルヴァンの「El Amor Brujo」で締め括られる。
シャトレの本拠地の改装工事がまだ終わらず、他劇場との提携公演が多いが、この際にいつもとは違う環境を楽しむのも悪くない。


シャイヨー国立ダンス劇場

ワークショップなど多彩な企画を用意していたイスラエルのバットシェバ舞踊団公演が、コロナ禍で中止となり、その代わりにモナコ公国モンテカルロ・バレエ団の「コッペ・リ・ア/Coppél-i.A.」が11月6日から14日まで上演されることになった。
また、フュージョンダンスと映像のコラボが楽しいジョゼ・モンタルヴォの新作「グロリア」は、来年2月4日から12日までの上演が追加された。


パリ・オペラ座

新総裁アレクサンダー・ネーフ氏が着任し、前総裁ステファン・リスネー氏の予定を変更して、ガルニエ宮での公演が始まっている。改装工事中だが、幕を下ろしてオーケストラピットに蓋をしたステージでの公演。演奏会は9月から、バレエは10月から始まっている。「オペラ座のエトワール」は、その名の通りエトワールとプルミエダンサーによる小品集で10月5日から、「ヌレエフ小品集」は6日からで、両作品とも月末まで行われる。オペラ座の限られたダンサーしか見られないが、早くもオニール八菜とヴァンサン・シャイエのデュエット「Herman Schmerman」(フォーサイス振付)が高評を得ている。
また、4人の振付家による「コンテンポラリープログラム」は11月5日から。これは、シディ・ラルビ・シェルカウイ、ダミアン・ジャレ、テス・ヴォエルカー、メディ・ケルクシュによる新作を含む4本。 シディ・ラルビ・シェルカウイとダミアン・ジャレはすでにオペラ座に作品を提供しているが、今回はそれぞれの作品となり、ダミアン・ジャレが中野公揮の音楽を使うのも楽しみだ。 テス・ヴォエルカー(Tess Voelker)は23歳のアメリカ人で、2017年からNDTのダンサー。外出禁止令下で作ったビデオダンスがブレイクしたメディ・ケルクシュ(Mehdi Kerkouche)は、バレエダンサーの新たな局面を見出すのではないかと期待する。
オペラバスティーユでの「ラ・バヤデール」は12月4日から。


ランコントル・コレグラフィック・アンテルナシオナル・ドゥ・セーヌ=サン=ドニ

プログラムの印刷が出来上がり、切符の販売を始めようとした矢先の劇場閉鎖令で、中止を余儀なくされたランコントル・コレグラフィックだが、93県の文化に貢献するフェスティバルは見事に復活した。コロナ禍により、出入国の問題などで参加団体は限られているが、新人発掘は未来の文化のために重要なことなので、是非応援したい。
ディレクター、アニタ・マチューの独自の見解を揶揄する人もいるが、振り返ればこのフェスティバルに参加した振付家の多くが、今では世界をツアーして回っている。「振付家の成長を見たいから、次回また招待する」というアニタ・マチュー。ジュリー・ニオッシュ、マキセンス・レイ、マルコ・ダゴスティン、ポル・ピなど、常連とも言えるアーティストに続く常連リストに入る新人は誰になるのだろう。


クレルモン=フェラン コメディ劇場 建立オープン

パリジャンも羨む「舞台作品上演のための劇場」がオープンした。(すべての掲載写真 ©K.Masumi)


コメディ劇場全体
2月に新築完成してオープン予定だった劇場は、コロナ禍により延期となり、9月の新シーズン開幕と共に公開された。公演に先立ち、カフェレストランが開業し、最初のイベントが地元生産者による即売会。


コメディ劇場市場
毎月1回行われ、野菜、果物、ワイン、蜂蜜、サラミなどのスタンドが並ぶ。うずら専門店まであった。劇場で食材が買えるとは誰が想像しただろう。夜はその有機栽培の食材を使った料理がレストランで振る舞われる。それを逃しても日替わりメニューは地元特産品を使ったものが多く、本格的。市民の憩いの場を目指す劇場の姿勢がうかがえる。


コメディ劇場レストラン
歴史的建造物公開日にはガイド付き見学も行われ、予約はあっという間に定員に達する人気で、当日ごり押しで参加しようとする人もいたが、あっさり断られていた。
新劇場は旧コメディ劇場の隣にあったバスターミナルを改装して、大小ふたつの舞台を含む建物となった。


コメディ劇場正面
旧バスターミナルは歴史的建造物のため、正面と内装の一部を保存して歴史を残している。旅立つ人の出発地だったバスターミナルは、観客を別世界へと誘う劇場になり、内装は旅立ちをイメージした装飾が残されている。


コメディ劇場ホール内装
天井画の鳥は旅立ちのシンボル。また、ホールと1階の間の装飾は、移動手段には欠かせない車輪がモチーフに使われている。こうして旧バスターミナルの歴史は残され、今では観客を暖かく迎えてくれている。


コメディ劇場1階ギャラリー
ガラス張りの窓を設けて自然光を取り入れ、一部の大きなガラスからは通りが眺められる。日常と非日常はたった一枚の壁で仕切られているだけなのだ。


コメディ劇場の窓から町
ガラス張りの窓を設けて自然光を取り入れ、一部の大きなガラスからは通りが眺められる。日常と非日常はたった一枚の壁で仕切られているだけなのだ。 ちょうど外の広場では路上パフォーマンスが行われていた。
この階にはいくつかの部屋がある。会議室、小スタジオ。作品の制作や上演にはスタッフとの打ち合わせが必要だし、軽食をとれるように炊事場がついた広い会議室もある。道路に面さない中庭は、スタッフや出演者が寛ぐ場所。観客だけではなく、制作側や出演者とスタッフへの配慮を考えた構造に感心した。


コメディ劇場大ホール
「ホリゾン」と名付けられた大ホールは878席の現代風イタリア様式で、見やすい構造となっている。「ポシプル」という小ホールは可動式で336席。座席を取り除けば1000人収容できる。ここが素晴らしいのは、このホールの大きさが大ホールの舞台と同じということ。つまり、大ホールと同じ状態でリハーサルができるのだ。トラックも入れるので、大ホールでの公演の装置の搬入も問題がないという。


コメディ劇場小ホール
1997年に創設された舞台作品上演のためのコメディ劇場は、これまで市の会議ホールを使用して公演を行なってきたが、作品上演には適さないため、長期計画で新劇場の建設が始まったそうだ。現在この劇場のディレクターのグランジエ氏は、役者を目指していたが芽が出ず、それでは演出を、とやってみたけれどこれもイマイチ。それなら公演のプログラミングを、と転職したら大当たり。この街の住人は本当に幸運だと思う。パリ並みの一流作品が見られるからだ。フランスのほとんどの劇場は、ディレクターが上演作品を決める。面白ければ客が集まるわけで、この劇場では年間前売り予約の開始日には、ほとんどの公演が完売になるという。
9月は新築劇場にふさわしいタイトルの演劇「建設中の会社/Société en chantier」で始まり、アンジュラン・プレルジョカージュの世界初演「白鳥の湖」、10月にはヴッパタール舞踊団ピナ・バウシュ振付の「緑の大地」と続く。あいにくコロナ禍により出入国ができず、ヴッパタール舞踊団公演は延期となってしまったが、見識眼のあるディレクターのおかげで、食指が動く演目が続く。
また、この町にはオペラ座もあり(主に演奏会とオペラ上演)、旧コメディ劇場は市民劇場として存続するわけで、3つの劇場が中心街にあるというのも、なんとも贅沢なことだとつくづく。
あとはコロナ禍で劇場閉鎖命令が下りないことを祈るばかり。

下記URL内の下方の動画で建物をバーチャル見学できます。
https://lacomediedeclermont.com/saison18-19/un-theatre-en-construction/

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