ユーロ・ダンス・インプレッション

Recent Impression

・アクラム・カーン「Outwitting the Devil」
・イスラエル・ガルヴァン「La Consagration de la Primavera」

9月の感動を再び求めて、アクラム・カーンの「Outwitting the Devil」を再び。

鉄の重い扉を叩くような鈍い音、スモーク、地獄の片隅での物語。パリの13ème Artよりも舞台が広いせいか、あるいは席が舞台に近すぎたせいか、空間に空きができたような気がした。この作品は、狭く出口のない密室の中での葛藤に緊迫感がある。その点は残念に思ったが、内容はさらに濃くなり、2度目の所見は新たなものが見えてくる。そこが面白い。


©Jean Louis Fernandez

前にも書いたが、これはメソポタミア時代の叙情詩「ギルガメシュ」を題材に、不死を求めながらも死を間近にした過去の英雄王を描いている。王を演じるのは69才のダンサー、ドミニク・プティだ。両手を頭にかざす仕草が何度も見られ、それは自分が王だったことを示している。自分に迫る者たちをなだめようと、慈悲を持って小刻みに震える手を差し伸べるも、その手は払い退けられ、押し倒されてしまう。そんな中で、無意識に髭の大男と老人が同じ動きをした自分に気づく。髭の男が自分の若き姿だったことに気づいたからだ。自分が犯した残忍な人殺しの場面を改めて目の当たりにし、初めてその罪を意識する。殺戮、そして復讐。その現実とも夢とも見境がつかない状況を操っているのは、シバの女王か。カーンらしく、インドの文化が組み込まれるのが作品の奥行きを深めているように思う。シバの女王率いる狂宴は恐ろしい。狂気と狂喜が入り混じる。恐れ慄く王の頭に、女王は石板を載せる。この叙情詩が描かれた石板だろう。永遠の命を求めた王は、刻まれた自分の歴史を背負って、永遠に彷徨わなくてはならないのだろうか。

9月に見た時より重く、罪に犯され出口のない地獄絵を見ているようだった。(1月8日クレルモン・フェラン市コメディ劇場)


©Jean Louis Fernandez

なお、公演の前に上映されたドキュメンタリー映画は、2002年のモナコ・ダンスフォーラムでのトークで、7才ですでに舞台に立ち、13才でピーターブルック演出の「テンペット」に出演した時の映像が見られたのが収穫。根っからの舞台人なのだ。また、この中でカーンに影響を与えた振付家として真っ先に名前をあげたのが、勅使川原三郎。静止は動であると。つまり、止まっていても身体の内部は動いているわけで、踊って動いているだけではなく、静止していてもそこには動きがあるのだという考え方に影響されたと言っていたのが興味深かった。そしてもうひとりは、アンヌ・テレサ・ド・ケースマイケル。最近のドキュメンタリーではなかったが、カーンの根本を知る上で興味深い映画だった。(ジョージ・コションホール)

次々と新境地に挑戦するイスラエル・ガルヴァン。今回は、現代音楽のふたりのピアニストとの共演だ。


©Jean Louis Duzert

2台のグランドピアノが対面に置かれ、円や四角い板が点在する舞台にガルヴァンは黒のシャツに半ズボンで現れた。赤いハイソックスが目を引く。ふたりのピアニストは、弦を叩き、鍵盤を叩き、それに呼応するガルヴァンは板を蹴り上げる。その板は、何と横向きに立てかけられた剥き出しのグランドピアノ。濃厚な(はっきり言えばメロディを捉えることができない)現代音楽と、ガルヴァンのサパテアードは、呼応していないようで、どこかでピタリと合う。伝統的なフラメンコでは見られないようなステップが踏まれ、その驚きは「春の祭典」のピアノの連弾へと続いた。この曲の連弾は面白い。ふたりのピアニストの距離が離れているために、音が移動し、ひとりが奏でた音色に、別の音が少し遠くから絡まるのだ。息の合ったふたりの演奏は、フレーズごとに音が移動し、微妙な広がりを見せる。阿吽の呼吸の演奏に会場は酔いしれた。一方のガルヴァンは、曲に合わせて質の違う床の上でサパテアードを踏み、丸い板を軽く蹴ってタンバリンにぶつけたり、時にニジンスキー振り付けのポーズを真似たりして遊び心十分。砂利の上での踊りは、YCAMとのコラボを思い出した。

曲は再びピアニストのシルヴィ・クルヴォワジエ作曲の美しいメロディによる現代音楽になり、ガルヴァンは円形に広がった長い黒のスカートを履いていた。脚を前に上げたりアラベスクをしたり、ラストの方では裸足で踊り、これはもうフラメンコというよりコンテンポラリーダンスだ。ただ正直なところ、いつもに比べてガルヴァンの動きのボキャブラリーが一辺倒になっていたように感じたのは、上体の動きの変化に乏しかったからではないだろうか。サパテアードが売り物のフラメンコだが、ここまで自由な表現をするのなら、さらなる動きの変化を求めたくなってしまった。おそらく、踊りのほとんどは即興だろうから、翌日の公演はまた違っていたのかもしれない。独特の世界をどこまで広げるのか。3月にはLa Villetteで別の作品を上演する。踊り続けるガルヴァンの今後の活動が見逃せない。1月10日Théâtre de la Ville/ Le 13ème Art)


©Jean Louis Duzert

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