ユーロ・ダンス・インプレッション

Recent Impression

・Camille Boitel & Sève Bernard ''間 (Ma, Aïda...)'' Nouveau Théâtre de Montreuil
・Silvia Gribaudi ''MonJour'' '' R.OSA'' Aux Abbesses
・振り付けコンクール''Danse Élargie'' ファイナリスト発表 日本からは大森瑶子の''HELP''
・速報 ロシアのウクライナ侵攻中にフランスツアーを行ったキエフの2つのバレエ団

カミーユ・ボワテルは、ジャンルを超えたアーティスト、コンテンポラリーサーカスの鬼才として紹介されて、すでに何度か日本公演を行なっているし、この作品も初演前の2018年にトライアウトとして東京芸術劇場で上演されているので、ご存じの方も多いかと思う。私は残念ながら2019年のモンペリエダンス・ダンスフェスティバルでの初演を逃し、その後はコロナ禍で公演中止となったこともあって、今年ようやく出会えた。
タイトルは上記の通り日本語表記だし、こちらでよく話題になる日本独特の「間」を意識したジャポニズム作品かと思っていたのだが、予想とは全く違う展開に驚きと笑いの1時間。この作品で言う「間」とは、「男女の間柄」なのだった。

劇場に入ってすぐに目に入ったのが舞台装置。左右に机があり、そのひとつでは鍋から水蒸気が上がり始めた。ふたつの机の間には布団。万年床なのか掛け布団は捲れていて、床には日用品が置かれている。日本的なこの場面から始まるのかと思いきや、客電が消えた暗転後にはこの光景はなく、全く違う情景で始まった。じゃあさっきの舞台装置は何? となるのだが、このような予想を覆す展開が次々と起こるのだ。
クリエーターの青木淳が舞台下手前に立ち、紐を引っ張ると高いところに書かれた文字が落ちる。「客入れ」「客入れ終了」。リアルタイムの説明が笑いを誘う。そして井原季子(イハラトキコ)が静々と鍵盤のついた小さな楽器を持って舞台に入って正座をし、お辞儀をしたところでいきなり「休憩」の文字。そして黒幕が閉まってしまった。え? もう終わり? すると「第1幕の最後」の文字が現れて、黒っぽい厚手の布に包まれた人が幕前の上手と下手から現れ、ゆっくりと近づいていくが、あともう少しで出会うというところで床に吸い込まれ、もぬけの殻になった布が穴から落ちて消えた。いったい1幕とはなんだったのだろう。狐につままれているのだろうか。そしてまた暗転。???こんな感じで36の短いシーンが連なっていく。

机を挟んだ男女は激しく愛を求めていたが、やがて喧嘩を始めてバトルが始まり、その勢いで机は床に沈んだ。次のシーンは、たくさんの小さな鏡やレンズが連なった壁の後ろでのミステリアスな男女の動き。次は、堂々と愛を告白できない男女の手が少しずつ近づいて、ついに手を繋ぐ。手だけにスポットを当てての演出に、幸せな門出かと思いきや、歩くたびに床が抜けてよろけるふたり。これはその後のふたりの困難を予感させる。雨の中で男を待つ女。通り過ぎる車のライトは、青木がふたつのライトを手で回して表現するというマニュアル演出に笑いが起こる。陽がこぼれ、森を想像させる装置の中での男女のバトルのBGMは祝詞というのが超皮肉。公園のベンチに座った男は、隣にいた女が倒れたのを助けようとするけれど、そのポーズが全て性行為の体位となってしまうとか、日常のシーンが誇張されて予想をはるかに超える展開に笑いが絶えない。
動きだけでなく、視覚的にも不思議なシーンがたくさんあった。シルエットのギターマンが、実はシルエットではなかったり、映像かと思っていたら実際に起こっていることだったり、騙し絵的な演出はさすがだ。そして、シーンのたびに壊れて落ちる床を綱渡するかのように逃れるふたり。客席奥の照明室からも崩れる音がして、客電がつき、スタッフが慌てて舞台袖に駆け降りるシーンもあって、劇場そのものが壊れるのではないかと不安にさせ、家具に囲まれた部屋で愛を確かめるように踊る男女のそばから床が崩れ、ここまで崩れれば怖いものなしだとさえ思ってしまう。

男女の関係を、皮肉と風刺で綴りながらどんどん崩壊していく舞台に驚き笑うが、どこか身につまされるのは、ありがちな男女の中を描いているからだろう。最後に全て崩れて瓦礫と化した舞台を見て「見事に壊れたね」と感動さえする観客の言葉にまた笑った。(2月17日モントルイユ・ヌーヴォーテアトル)


©kaz

イタリアでブレイクしているシルヴィア・グリバウディ は、パリのテアトル・ド・ラ・ヴィルいち押しのアーティストでもある。昨年はコロナ禍で公演が中止となったにも拘らず、たったひとりでアベスの舞台から配信したワークショップは度肝を抜かれるほどパワフルだった。
そして今シーズンは、新作「MONJOUR」で戻ってきた。しかも最終日は「シルヴィア・グリバウディ と過ごす1日」と題してワークショップやパフォーマンス、そして映画の上映があった。ワークショップの参加者は「講習が終わる頃にはすっかりプロのダンサー気分になれました~!」と評判は上々で、参加しなかったことを後悔。次回はぜひ!

さて、夕方のパフォーマンス「R.OSA」から所見。
こういっては失礼だが、グリバウディは決してスリムな体をしていない。しかし、その彼女が細く見えるほど豊満な女性(ほぼ球形)が、恥じらうこともなく、緑のレオタード姿で登場したのだ。その体をゆっくりと見せて、歌い、踊る。その姿がなんとも微笑ましい上に、早口言葉のように歌い出したり、チカチカの照明の中でエクササイズをしたり、最後には顔をひん曲げて表情を変えながら1曲歌うなど、予想だにしない展開に会場は爆笑の渦。途中観客を立たせて一緒に踊るなど、とても楽しい45分だった。彼女のキャラクターを生かしたグリバウディの演出に感心しながら、地下に降りての映画鑑賞となった。まずは代表作「Graces」の抜粋とインタビューなどを絡ませたドキュメンタリー映画「Graces vu des coulisses」。すでにネット配信で見ていたけれど、大画面で見ると迫力が違う。続く「Overtour」は、60才以上の女性グループへのワークショップのドキュメンタリーで、ダンスをしたこともなく、老後に目的を見つけられずにいた女性たちが、生き生きと身体表現の面白さにはまっていく様子に、ダンスの素晴らしさを改めて見出した。


©Manuel Cafini


©Andrea Macchia

さて、いよいよ本公演の始まりだ。期待を裏切らず、「MONJOUR」(2021)の幕開きは爆笑で始まった。なんと5人の男が素っ裸で登場したのだ。大事なところは手で隠し、「見たいだろうけれど見せないよ~」と言う感じで、サクサク踊っている。片手で隠したままピルエットもするしリフトもする。そしてフランス人がよく使う「ヴォアラ」を連発し、「イッツ・フォー・ユウ」で締める。「あなたのために私がいる、あなたのための作品」色々解釈できるけれど、皆さんのために僕たちがここにいて踊っているのよ~」ってな感じだ。銀ラメのミニワンピースを着て白鳥如く踊ったり、アクロバットをしたり。この作品で彼女は踊らないけれど、開演前のユーモアたっぷりのアナウンスや、時折ダンサーに指示を出したりと、客席でその存在感を発揮している。とにかく楽しい作品を作りたいと笑いを追求するグリバウディ。コロナとか戦争とか辛かったり悲しいことが起こっている今、全てを忘れて笑って楽しめる時間は貴重だ。(2月19日アベス劇場)


©Anonio Ficai


©Andrea Macchia

ダンスをどこまで広げられるかを競うコンクール、ダンス・エラルジー。パリのテアトル・ド・ラ・ヴィル主催で、2年に1回行われ、今年が7回目となる。63か国から454の応募があり、ビデオ審査で選ばれた19作品の最終選考が、今年6月25、26日に行われる。日本からは大森瑶子の「ヘルプ」が選ばれている。

以下は19人のファイナリスト
A BIG BIG ROOM FULL OF EVERYBODY'S HOPE d'Amit Noy / Nouvelle Zélande

BREAK (titre provisoire) de Bruce Chiefare / France

CORE de Jerson Diasonama / France

D.I.S.C.O (DON'T INITIATE SOCIAL CONTACT WITH OTHERS) de Josépha Madoki / France

ÉPANCHER de Leïla Ka / France

HAIRY de Dovydas Strimaitis / France – Lituanie

HELP de Omori Yoko / Japon

INVISIBLE HEROES de Ioanna Paraskevopoulou / Grèce

KLAPPING de Ahilan Ratnamohan & Feras Shaheen /Australie & Palestine – Belgique

LA PREMIÈRE DANSE POLITIQUE de Josué Mugisha / Burundi

MEEPAO de Surjit Nongmeikapam / Inde

MER PLASTIQUE de Tidiani N’Diaye / France - Mali

MIREILLE du Collectif ÈS / France

MULTI-PRISES de Yasmine Hadj Ali / France

ROI MUSCLÉE de Louise Buleon Kayser / France

TO BE - CHAPTER TWO d’Amir Amiri / Iran

TRIBU[T] de Clémence Baubant / France

UNE FAMILLE SINGULIÈRE de Claire Durand-Drouhin /France

WHAT DID YOU DO BEHIND THE CURTAIN ? de Abdallah Damra / Palestine

25日の予選を通過した10組が、翌26日のファイナルへと臨むが、25日に全部を見るのがおすすめ。入場無料。

ロシアがウクライナに侵攻を始めた時、フランスではウクライナの2つのバレエ団が公演を行っていた。キエフのグランドバレエ団とシティバレエ団だ。
1月3日から2ヶ月にわたる「白鳥の湖」フランスツアーを行っていたキエフ・グランドバレエ団は、3月2日最後の公演をフランス南西部のアルカッション近郊のラ・テスト=ド=ビュッシュのクラヴェイ劇場で終えた。満席の会場でのカーテンコールでは、ダンサーたちが胸に手を当てて戦争の終結と平和を祈って国家を歌い、感極まったダンサーが涙するシーンも。この後ポーランドでの10公演を続けるが、何人かはウクライナへ戻るという。
リンクはこちら。

一方、「くるみ割り人形」のツアー中だったキエフ・シティバレエ団は、パリ市の提案でシャトレ劇場にしばらく滞在することになった。祖国に戻ったとしても練習はできないだろうから、希望者はパリに残って次の公演に備えればというパリ市長の提案だ。そして3月8日にはウクライナ支援のための特別公演が行われた。パリ・オペラ座からエトワールのポール・マルクが参加してのキエフ・シティバレエ団のレパートリーの抜粋と、同バレエ団やラインバレエ団の芸術監督ブルノ・ブッシェ、セドリック・アンドリュー(現パリ国立高等音楽・舞踊学校校長)などによる公開レッスンが上演された。10ユーロの入場料は全てウクライナの難民支援に充てられ、切符は数時間で完売となった。


Théâtre de la ville de Parisのウェブページより転載

「戦争は憎しみを生む。たとえ勝ったとしても、それは多くの犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならない。」(マギー・マラン「Y allez voir de plus près」より)

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