ユーロ・ダンス・インプレッション

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スザンヌ・リンケの小品5作が上演された。リンケ自身が踊ったのは、「IM BADE WANNEN 」と「KAIKOU-YIN」。浴槽の周りで踊る有名な「IM BADE WANNEN 」は1980年の初演。ということは、今から30年前のもの。確かに彼女自身は年を取ったように見えるが、踊り始めたら昔と少しも変わらない。圧倒的な存在感はさすがだ。「KAIKOU-YIN」は2008年の作品だが、1984年の「ORIENT-OKZIDENT」の動物的な動きに似ている。「ORIENT-OKZIDENT」は、若い女性ダンサーが下手から上手に向かって四足動物のような動きをしながら移動して、野性味を匂わせたのに対し、「KAIKOU-YIN」でのリンケは、貫禄のある母親の豹、という印象。少女の何とも言えない透明感を出した「WANDLUNG」と、ロール場になったシートを蹴りながら道を作り、その一直線の範囲で倒れては進むだけなのに、人生の山や谷が見える「 FLUT 」。ウルス・デートリッヒも年を取ったなあと思いながら、30年という時間の流れを感じずにはいられなかった。(6月8日アベス劇場)


「IM BADE WANNEN」(C)Peter Schmidt

テアトル・ド・ラ・ヴィルの今年のシーズンの最後は、ピナ・バウシュでもなくローザスでもなく、タップダンスのサヴィオン・グローヴァー。劇場のディレクターが替わればこうなるのかと実感。3人の男性ダンサーが繰り広げるタップダンスは、確かに疲れを知らないタフな踊りとそのテクニックに驚きはするものの、物語性やメッセージはなく、三角形に位置した3人がほぼ最後まで定位置でタップを踏む。グローヴァーには緊張感というものが全く感じられず、自宅でくつろぐように踊る割には高度なテクニックを見せ、興奮する観客をクールに眺めて余裕で歌も歌ったりする。これはさすがだが、 最後まで強い調子のタップをうるさいと感じてしまったのはなぜだろう。おそらく、 時間との遊び、つまり間の取り方が単調なのだと思う。ここがフレッド・アステアとの違いかな、と思った。また、コンテンポラリーの殿堂と言われたこの劇場が、アメリカのショーダンスで締めくくられた事が少し寂しかった。ただ、満席の会場は熱気で溢れ、スタンディングオベーションだったのは、一般客にとってよい締めくくりだったのだろうと思う。(6月9日テアトル・ド・ラ・ヴィル)


(C)Savion Glover Productions 2009

ダンス公演はお決まりの劇場だけでなく、パリの区のイベントでも観る事が出来る。11区はダンスや演劇を含めたフェスティバル、オーンズ・ブージュを催した。入場料はほとんどの公演が無料というのがうれしい。この不況時には大変にありがたいが、有料高級劇場とは大違いで、会場が体育館みたいなので、踊る方も見る方も決して最高の状態ではないのが残念だが、お役所もがんばっているのだと思って許してしまおう。さて、ステファニー・バッテン・ブランドはアメリカ人で、今回は小松飛鳥さんが出演している。日本ではよく「欧米」と言ってアメリカとヨーロッパをいかにもくっついているようにひとまとめにしてしまいがちだが、アメリカとヨーロッパは大きく違う。ダンスにしても然り。ヨーロッパのコンテンポラリーダンスに見慣れている私にとっては、バリバリのアメリカ的な作品は新鮮だが、戸惑う事もある。あっけらかんとしていて、後腐れがなくて。でもちょっとさっぱりしすぎていて後味が物足りないというか。でも、フィジカル的には超満足。バッテン・ブランド自身は容姿にも恵まれ、長い手足とダイナミックな踊りに観客の目を一気に引きつけてしまうほどの素晴らしいダンサーだと思うが、我ら日本の小松飛鳥もがんばっていた。山椒は小粒でもぴりりと辛いというが、彼女はこの表現にぴったり。小柄なのに、はち切れんばかりのエネルギーを振りまき、ふとした瞬間に無垢な子供のようにポッとしている。やんちゃ坊主というか。作品も子供の遊びの延長のように楽しかったので、小松の存在は大きなものを占めていた。これからもたくさんの振付家と出会って、可能性をどんどん広げてほしいと期待するダンサーだ。バッテン・ブランドが、ニューヨークと思われるビルの屋上で踊るシーンがホリゾントに映し出されて作品が始まる。その後ダンサーがスピーディでキレのある踊りを見せてくれる。ダンサーが持つ長い紙に映像を投射したり、紙で作ったドレスをまとったり、仲の良い子供たちが元気に飛び回っているようなイメージ。このあっけらかんとした楽しさが好きだった。(6月10日SALLE OLYMPE DE GOUGES)

パリ、ダンスの夏

パリの夏のフェスティバルの1つであるパリ、ダンスの夏。今年は例年の1カンパニー3週間公演を拡大して、2カンパニー4週間公演と太っ腹なのはありがたい。しかも、ミハイル・バリシニコフとアナ・ラグナのデュエットが1週間、ノボシリルスクバレエ団が3週間という豪華プログラム。助成金が減らされたのにも拘らずがんばってくれた事に感謝。ではまず6月に行われたアナ・ラグナとミハイル・バリシニコフの公演から。もう一つのプログラムのノヴォシビルスク・バレエ団の評は7月分に掲載。

なんという幸福! あのバリシニコフとラグナの踊りが見られるなんて! バリシニコフがABTの芸術監督をしていた頃に何度もリンカーンセンターに通って、彼の踊りを観てほれぼれしていた頃が思い出される。あれから25年も経つので、昔のような踊りは期待できないだろうし、先に行われたリヨンでの公演では息切れしていたというから少し心配していたのだが、とんでもない! 13回のピルエットはさすがにしなかったが、踊りのうまさは変わらないし、それにもまして豊かな表現力と存在感で、鳥肌が立つほどだった。ほぼ同じ年代でやはり旧ソ連から亡命したヌレエフは、最後までクラシックバレエに固執したのに対し、バリシニコフはアメリカ亡命後からコンテンポラリーダンス、ミュージカルや芝居、そして映画などに挑戦し、舞台人として成功した。舞踊界に大きな影響を与えた2人のロシア人を思わず頭の中で並べてしまった。偶然初日のチケットが手に入り、この日にしか上演されない「SARABANDE」を見られたのは大変な幸運だった。これは1994年に創作された「A SUITE OF DANCES」の一部で、ジェローム・ロビンスへのオマージュ。ホリゾントに映るロビンスとのリハーサル風景の映像には、1983年午後5時という字幕が見える。ああ、若かりし頃のバリシニコフ! その映像の前でさらりと踊る62歳のバリシニコフ。確かに年はとったけど、丁寧な踊りは美しいまま。次の「ワルツ・ファンタジー」は、アレクセイ・ラトマンスキー振付け(2009年)でバリシニコフのソロ。舞踏会に行って素敵な人に一目惚れ。ダンスに誘うけれど、振られてしまうというような演技で始まる。後半は動きがなくちょっとがっかりしたが、役者としてのバリシニコフに満足。さて、待望のアナ・ラグナとのデュエット「SOLO FOR TWO」。なんで8分しか踊ってくれないの!? 抜粋じゃなくて全部踊ってよね! と叫びたかった。だってラグナが本当に素敵で、一つ一つの感情がびしばしと伝わってくるのだ。今までに何人かのバージョンを観たが、それらとは異なる次元の作品に感じた。ベンジャマン・ミルピエの「YEARS LATER」。これはなかなかおしゃれな作品だった。まだバレエ学校の生徒だった頃のバリシニコフのビデオが出てくるとは予想もしなかった。この頃から人一倍光っていたのだろう。そして舞台の上の現在。あはは、今じゃあこんな事は出来ないよ、みたいなジェスチャーをしながらビデオの過去の自分と掛け合ってコラボレーションするお茶目な作品だ。さすがミルピエ。良い捉え方をしている。最後はマツ・エック2007年の作品「PLACE」。白いいくつかの四角い枠が照らされる。自分の世界と2人の共有する世界の溝はどうやっても埋められない。破綻していくカップルを描いた作品で、2人ともすごく素敵なのだけれど、何かしっくり来ないのは、マツ・エックの動きをさせたら右に出る人のいないラグナと、トワイラ・サープ仕込みの踊りの質の違いなのだろうか? でも、細かい事よりこのゴールデンコンビの踊りを見る事が出来ただけで幸せ。会場は満席で、もちろんスタンディングオベーション。(6月15日テアトル・ド・ラ・ヴィル)


(C)Bengt Wanselius


(C)Julieta Cervantes

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