ダンス公演はお決まりの劇場だけでなく、パリの区のイベントでも観る事が出来る。11区はダンスや演劇を含めたフェスティバル、オーンズ・ブージュを催した。入場料はほとんどの公演が無料というのがうれしい。この不況時には大変にありがたいが、有料高級劇場とは大違いで、会場が体育館みたいなので、踊る方も見る方も決して最高の状態ではないのが残念だが、お役所もがんばっているのだと思って許してしまおう。さて、ステファニー・バッテン・ブランドはアメリカ人で、今回は小松飛鳥さんが出演している。日本ではよく「欧米」と言ってアメリカとヨーロッパをいかにもくっついているようにひとまとめにしてしまいがちだが、アメリカとヨーロッパは大きく違う。ダンスにしても然り。ヨーロッパのコンテンポラリーダンスに見慣れている私にとっては、バリバリのアメリカ的な作品は新鮮だが、戸惑う事もある。あっけらかんとしていて、後腐れがなくて。でもちょっとさっぱりしすぎていて後味が物足りないというか。でも、フィジカル的には超満足。バッテン・ブランド自身は容姿にも恵まれ、長い手足とダイナミックな踊りに観客の目を一気に引きつけてしまうほどの素晴らしいダンサーだと思うが、我ら日本の小松飛鳥もがんばっていた。山椒は小粒でもぴりりと辛いというが、彼女はこの表現にぴったり。小柄なのに、はち切れんばかりのエネルギーを振りまき、ふとした瞬間に無垢な子供のようにポッとしている。やんちゃ坊主というか。作品も子供の遊びの延長のように楽しかったので、小松の存在は大きなものを占めていた。これからもたくさんの振付家と出会って、可能性をどんどん広げてほしいと期待するダンサーだ。バッテン・ブランドが、ニューヨークと思われるビルの屋上で踊るシーンがホリゾントに映し出されて作品が始まる。その後ダンサーがスピーディでキレのある踊りを見せてくれる。ダンサーが持つ長い紙に映像を投射したり、紙で作ったドレスをまとったり、仲の良い子供たちが元気に飛び回っているようなイメージ。このあっけらかんとした楽しさが好きだった。(6月10日SALLE OLYMPE DE GOUGES)
なんという幸福! あのバリシニコフとラグナの踊りが見られるなんて! バリシニコフがABTの芸術監督をしていた頃に何度もリンカーンセンターに通って、彼の踊りを観てほれぼれしていた頃が思い出される。あれから25年も経つので、昔のような踊りは期待できないだろうし、先に行われたリヨンでの公演では息切れしていたというから少し心配していたのだが、とんでもない! 13回のピルエットはさすがにしなかったが、踊りのうまさは変わらないし、それにもまして豊かな表現力と存在感で、鳥肌が立つほどだった。ほぼ同じ年代でやはり旧ソ連から亡命したヌレエフは、最後までクラシックバレエに固執したのに対し、バリシニコフはアメリカ亡命後からコンテンポラリーダンス、ミュージカルや芝居、そして映画などに挑戦し、舞台人として成功した。舞踊界に大きな影響を与えた2人のロシア人を思わず頭の中で並べてしまった。偶然初日のチケットが手に入り、この日にしか上演されない「SARABANDE」を見られたのは大変な幸運だった。これは1994年に創作された「A SUITE OF DANCES」の一部で、ジェローム・ロビンスへのオマージュ。ホリゾントに映るロビンスとのリハーサル風景の映像には、1983年午後5時という字幕が見える。ああ、若かりし頃のバリシニコフ! その映像の前でさらりと踊る62歳のバリシニコフ。確かに年はとったけど、丁寧な踊りは美しいまま。次の「ワルツ・ファンタジー」は、アレクセイ・ラトマンスキー振付け(2009年)でバリシニコフのソロ。舞踏会に行って素敵な人に一目惚れ。ダンスに誘うけれど、振られてしまうというような演技で始まる。後半は動きがなくちょっとがっかりしたが、役者としてのバリシニコフに満足。さて、待望のアナ・ラグナとのデュエット「SOLO FOR TWO」。なんで8分しか踊ってくれないの!? 抜粋じゃなくて全部踊ってよね! と叫びたかった。だってラグナが本当に素敵で、一つ一つの感情がびしばしと伝わってくるのだ。今までに何人かのバージョンを観たが、それらとは異なる次元の作品に感じた。ベンジャマン・ミルピエの「YEARS LATER」。これはなかなかおしゃれな作品だった。まだバレエ学校の生徒だった頃のバリシニコフのビデオが出てくるとは予想もしなかった。この頃から人一倍光っていたのだろう。そして舞台の上の現在。あはは、今じゃあこんな事は出来ないよ、みたいなジェスチャーをしながらビデオの過去の自分と掛け合ってコラボレーションするお茶目な作品だ。さすがミルピエ。良い捉え方をしている。最後はマツ・エック2007年の作品「PLACE」。白いいくつかの四角い枠が照らされる。自分の世界と2人の共有する世界の溝はどうやっても埋められない。破綻していくカップルを描いた作品で、2人ともすごく素敵なのだけれど、何かしっくり来ないのは、マツ・エックの動きをさせたら右に出る人のいないラグナと、トワイラ・サープ仕込みの踊りの質の違いなのだろうか? でも、細かい事よりこのゴールデンコンビの踊りを見る事が出来ただけで幸せ。会場は満席で、もちろんスタンディングオベーション。(6月15日テアトル・ド・ラ・ヴィル)